What's today's recommendation?
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Photo by shigemipics
当店は、コーヒー豆とドリップコーヒーだけを提供する小さな専門店です。このシンプルなメニュー構成には、意図もあれば、長い時間をかけて自然にそうなった背景もあります。スイーツやベーカリーが好きな私が、コーヒーだけに絞る今の形に落ち着いたのは、多くの試行錯誤や出会い、そして静かに紡がれてきた時間があるからです。
選択肢を増やすことで生まれる楽しさもある一方で、選択肢をあえて絞られたときに、そのものが持つ本質により深く触れられる瞬間がある。それに気づいたのは、特別な出来事ではなく、日々の中で少しずつ形づくられていった発見でした。
お客様がどの豆を選び、どんな時間に味わわれるのか。その一杯には、選んだ人だけの小さな物語が宿ります。当店にいらっしゃるお客様との何気ない会話やその場の空気感から、その物語が静かに伝わってくることがあります。
そんな時、思わず「今日のおすすめはなんですか?」とお客様に尋ねたくなることがあります。通常なら店主に向けられるその質問を、お客様に投げかけたくなるのは、ここで過ごされるお客様一人ひとりの時間こそが、当店のスペシャリテだと感じるからです。その時間が、静かにコーヒーを味わいながら自然と生まれていくものだからこそ、なおさら大切に思えます。
選択肢が少ないこと。それは不自由ではなく、余白を楽しむ自由をお届けする形でもあります。この形態は計算されたものではなく、時間とともに自然と育まれてきたもの。選択肢を絞ることで、一杯のコーヒーがより深く心に届き、その味わいが豊かな時間を育てる一助になればと思っています。
片田舎にあるこの小さな店で過ごす時間が、お客様にとって何気ないけれど特別なものになることを願っています。それがただの願望ではなく、お客様の存在によって形になっていく。その連なりが、この店のあり方を少しずつ育ててきました。
お客様が選ぶコーヒーが、その時間とともにどのような物語を紡いでいくのか。その答えが、また新しい発見につながることを楽しみにしております。
自然と育まれてきた当店の一杯が、日常の小さな喜びとして心に残るひとときとなりますように。