
ボタリズムの養蜂記録:日本ミツバチの一年と特別な蜂蜜
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私が営むボタリズムコーヒーロースターの傍らで取り組んでいる日本ミツバチの養蜂について、今回はその一年の流れと、今年の採蜜のエピソードをお話ししたいと思います。日々の焙煎とはまた違う、自然と向き合うもうひとつの営みです。

春から始まる日本ミツバチの一年
日本ミツバチの養蜂は、春から始まるサイクルで考えると分かりやすいです。越冬を終えた群れの中で春に新しい女王バチが生まれ、古い女王バチは働きバチを連れて分蜂(ぶんぽう)します。この分蜂は自然界における群れの更新であり、養蜂家にとっては新しい群れを迎える大切な季節です。私にとってこの分蜂の時期は、焙煎という本業と庭の蜂の分蜂の気配に合わせて動き回る大変忙しなくも嬉しい季節です。

今年の春、越冬を経た群れの分蜂と繰越群と併せて全部で9群からスタートしました。巣箱を設置し、花の時期を見計らいながら新しい群れの安定を見守る日々。ミツバチたちは地域の花々を訪れながら巣を育て、季節が進むごとにその土地ならではの蜜を集めていきます。
厳しい夏と生き残った2群
しかし今年の夏は昨年にも増して暑く、雨もほとんど降らなかったため、非常に厳しい環境になりました。カラカラに干からびた里山では花が少なくなり、ミツバチたちにとっても大きな試練。蜜源植物が充分でないなどコロニーの健全な成長にとっても影響があったのだと考えています。
結果、秋まで生き残った群れはわずか3群に。採蜜できるほど順調に育ったのはそのうちたった2群だけでした。
2つの群れとその蜂蜜
今回採蜜できた2群には、それぞれ異なる背景があります。ひとつは2025年の春に生まれた新しい女王蜂と働き蜂がゼロから巣を築き上げた群れ。その蜜は明るいゴールデン色で、春から秋までの花の蜜が詰まったフレッシュな風味の中に栗のようなほっこりとした味わいが感じられます。
もうひとつは、私が「繰り越し群」と呼んでいる群れ。昨年の春から越冬を経て、1年半ほどの間に蓄えられた蜜が含まれています。その蜂蜜は、よりアンバーがかった色合いで、完熟した熟成感のある深い味わいと柑橘類のようなフルーティーな果実味が特徴です。

フレッシュさと深みを併せ持つ特別な蜂蜜
今回の採蜜では、この2つの群れの蜜をブレンド。新しい蜜のフレッシュさと、繰り越し群の深み。里山の四季の恵みを濃縮したような特別な味わいが生まれました。
ただ、残念ながら採れた量は非常に少なく、一般販売は叶いませんでした。これまで何度もご注文くださっているリピーターの方々にだけお分けしたところ、すぐに完売となってしまいました。
(楽しみにしてくださっていたにもかかわらずご注文を承れなかった方々には申し訳ございません。)
日本ミツバチと自然
日本ミツバチの養蜂は、自然のリズムや環境に合わせて行う営みです。
人の手でコントロールできる部分はごくわずかで、天候や花の開花、気温、降雨量など、すべてが彼らの暮らしと蜜の質を左右します。
思い通りにいかないことも多いですが、その不確かさの中にこそ、自然と共にあることの意味があるように思います。季節の移ろいを共に感じ、働き蜂たちの小さく健気な営みを見守る時間は、ボタリズムのモットーである「From the Earth to Cup(大地からカップへ)」の理念と通底しています。
来春への想い
今年の採蜜を終え、蜜蜂のいる里山もやがて冬がやってきます。冬の寒さを乗り越え、また来春、花の季節を迎え、分蜂の気配を知らせてくれる日を待ちながら、巣箱の前で静かに見守っていきます。