
SCAJ2025レポート:科学と自然が紡ぐ、コロンビアコーヒーの今と未来
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SCAJ2025(スペシャルティコーヒー展示会)で開催されたコロンビアコーヒー生産者連合会(FNC)のセミナーに参加しました。講師はコロンビア国立コーヒー研究センター(Cenicafé)の植物病理学者、アルバロ・ガイタン博士。ブラジル、ベトナムに次いで世界第3位のコーヒー生産国であり、ウォッシュドプロセスのコーヒー生産に関しては世界1位を誇るコロンビアは、ボタリズムでも欠かすことの出来ない大切な産地。そこで今、どのような想いと技術が重ねられているのか。焙煎する私にとっても、重要な示唆に富む時間でした。

雨と山に育まれる、コロンビアの地形的恵み
コロンビアは「一年に二度、雨季がくる」特異な国です。これは赤道付近を南北に揺れ動く気象帯「赤道収束帯(Intertropical Convergence Zone)」の影響によるもので、これがもたらす降雨パターンによって、国内には3つの収穫サイクルが存在します。

この地理的多様性のおかげで、コロンビアのコーヒーは年間を通して出荷されています。一方で、収穫の難しさや病害リスクも高く、収穫期を迎えた果実と未成熟の果実が同時に実るという現場にとっての複雑さがあるとのことです。

山の傾斜に根を張る、アラビカの風景
コロンビアで栽培されるアラビカ種は、その約95%が山の斜面に広がっています。とくに標高1,500~2,000mの地帯に集中しており、こうした高地ならではの気温差が、果実の密度や甘みを育みます。

ただし、傾斜地での栽培は作業効率が下がり、土壌流出(erosion)という課題も伴います。約84万ヘクタールの生産地のうち、61%がこの高標高帯にあるという事実は、豊かさと困難が表裏一体であることを示しています。
「コロンビアらしさ」を守るための科学
セミナーでは、病害に強く、品質も高い品種の研究開発が続けられていることが紹介されました。代表的な「カスティージョ種」は既に全国に普及しており、近年ではその進化版である「カスティージョ2.0」も紹介されていました。こちらは昨年受講したセミナーで試飲させて頂いた新品種で、昨今の地球温暖化に対する希望の一つです。コーヒーの苗木を植え替えるのはおよそ20年に1度。「今、何を植えるか」が未来を決めるというわけです。

栽培密度の最適化(1haあたり5千本から最大1万本)、シェードマネジメント(日陰樹による温度調整)、pH管理など、科学的根拠に基づいた農業が、丁寧に導入されていました。
サステナビリティへの取り組み
印象深かったのは、水と副産物の活用について。たとえば、水洗式精製(ウォッシュド)に必要だった水の量は、かつては1kgあたり40Lもの量を必要としていました。それが様々な取り組みや新しい技術導入の結果として、現在では僅か0.5Lまで減少しています。
また、果肉やパーチメントなど副産物の92%を堆肥だけでなく飼料・燃料・昆虫タンパク源として様々な循環利用を模索。こうした“循環”の発想が、未来のコーヒー生産を支えていることを肌で感じました。

デジタルと現場をつなぐアプリとAI
Cenicaféでは、スマートフォンアプリを通じて農家に技術支援を届けています。病害の画像検索、作業記録、乾燥状況の数値化など、現場の課題をリアルタイムで共有可能に。

AIアシスタント「Adriana」は、英語・ポルトガル語・フランス語に対応し、将来的には日本語対応も視野に入れているとのこと。(ホントかな?)
ハイブリッドな店舗運営
今回のセミナーを経て、コロンビアから届く麻袋の中身が、いかにたくさんの人の知恵と時間に支えられているかを、あらためて感じました。
自然豊かな南房総で焙煎をしていますが、その一杯が誰かの暮らしに届くまでに、地球の裏側ではこうして科学と自然が調和する営みがある。だからこそ、焙煎の熱と時間にも、誠実でありたいと思います。また私自身も焙煎機でのロースティングや日々のお客様のとのやり取りのような人にしか出来ない仕事の研鑽に加えて、生成AIをはじめとする最新技術も含めて勉強を重ねて知見を深め、千倉町のロースタリー・オンラインストア共に、今後もハイブリッドな店舗運営を心掛けていきたいと思います。