ニホンミツバチとの暮らしに、ひとつの区切り
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7月の千倉は、朝から蝉の声と潮の匂いに包まれています。夏の光が濃くなるこの季節に、お客様にお伝えしなければならないことがあります。
長年、自宅の里山で共に暮らしてきたニホンミツバチの群れが、この夏、すべて姿を消しました。
ニホンミツバチに関心を持ったのは、およそ12年前のことでした。南房総への移住をきっかけに本格的な飼育へ向けた情報収集を始め、書籍や養蜂家の方々から学びを重ねてきました。2019年の春に最初の巣箱へ蜂たちが入居してくれたときの高揚は、今もはっきりと覚えています。1群から始まった暮らしは、翌年には3群、もっとも多い年には15群にまで増えました。
今も忘れられない一日があります。ある遺跡の敷地で見つかった自然巣を保護してほしいと依頼を受け、現地へ向かったときのことです。ベニヤ板を外すと、貯蜜層・花粉層・育児層ときれいに層をなす、惚れ惚れするほど立派な巣が現れました。自作の吸引機で数千匹の蜂を丁寧に捕獲し、育児層を巣枠へ移し替える作業は夜21時を過ぎるまで続きました。ちょうど中学生の社会科見学と時間が重なり、作業を見ていた生徒のひとりが「引っ越しだって、そんな事出来るんだ、優しい」と声をかけてくれました。駆除ではなく保護なのだと、あの一言に長い作業の疲れが吹き飛んだことを、今でもよく覚えています。
採れた蜂蜜は年に一度か二度、瓶に詰めて当店のサブアイテムとしてお分けしてきました。最盛期には10kgを超える採蜜があり、多くのお客様に手に取っていただきました。ここ数年は量が減り、瓶詰めできた分を常連のお客様へお知らせした時点で完売という状況が続いていましたが、それでも毎年楽しみにしてくださる声が、この暮らしを続ける支えのひとつでした。
この数年、冬を越せない群れが少しずつ増えていました。女王蜂の不調、寄生虫、そして近年明らかに極端になっている夏の少雨と高温。里山の生態系そのものが変わりつつあることを、巣箱の前で感じる場面が多くなっていました。そして今年、最後の群れも巣箱を後にしました。
正直なところ、まだ気持ちの整理は途中です。それでも、蜂たちと過ごした年月が与えてくれたものの大きさは、はっきりと言葉にできます。ほんの少しの花蜜を集めながら受粉という大きな役割を担う小さな生き物たちと暮らすうちに、世界の見え方が変わりました。里山の四季の移ろいを、蜂の目線で眺める習慣がついたことは、焙煎という仕事にも通じる財産になっています。
これまでの蜂たちとの日々は、養蜂記録の記事や、ニホンミツバチの蜂蜜についての記事に残しています。
誠に恐れ入りますが、2026年の蜂蜜の販売はございません。これまで手に取ってくださったすべてのお客様に、心より御礼申し上げます。
野生のニホンミツバチは、今もこの土地のどこかで暮らしています。花粉の媒介という生態系の要を担う彼らが、これからも安心して暮らせる里山であってほしい。その願いは変わりません。いつかまた、巣箱に新しい群れを迎えられる日が来ることを願いながら、今日も焙煎機の前に立っています。